🌾クシナダヒメ Kushinada-Hime
-八岐の脅威を越えて実る稲穂――櫛に姿を変え、出雲を結ぶ麗しき女神-
クシナダヒメは、日本神話を代表するヤマタノオロチ退治の物語に登場する女神です。恐ろしい大蛇への最後の生贄となる運命を、スサノオによって救われ、その妻となりました。
豊かに実る稲田を象徴する女神とも考えられ、縁結びや夫婦円満、五穀豊穣の信仰を集めています。姫が櫛へ姿を変える場面は、その名と運命が結びついた印象深い神話表現です。
『女神転生』では、美しい和装と多数の櫛を備えた、頼れる回復役として親しまれています。

国津神クシナダヒメ

◆日本 2012年|古事記編纂1300年記念
板絵著色神像「伝稲田姫命」クシナダヒメと伝わる神像
メガテンと神話におけるクシナダヒメ
八岐大蛇に狙われた稲田の女神
クシナダヒメは、『古事記』では櫛名田比売(くしなだひめ)、『日本書紀』では奇稲田姫(くしいなだひめ/くしなだひめ)などと記される出雲の女神です。漢字だけを見ると読みづらいのですが、「比売」も「姫」もヒメを表し、「奇」は霊妙な、不思議な力をもつという意味に解されます。「櫛」の字は、神話の中で姫が櫛に姿を変える場面とも響き合いますが、名前の由来には諸説あります。父はアシナヅチ、母はテナヅチで、八人姉妹の末娘でした。豊かに実る稲田や生命の繁栄を象徴する女神とされ、現在もスサノオとともに祀られ、縁結び、夫婦円満、子孫繁栄、五穀豊穣の神として信仰されています。
最後の娘とスサノオの出会い

◆スサノオと悲嘆に暮れるクシナダヒメ、アシナヅチ、テナヅチを描いた浮世絵
高天原を追われて出雲へ降りたスサノオは、川を流れてくる箸を見つけ、その上流に人が住んでいることを知ります。そこで出会ったのが、泣き悲しむ老夫婦とクシナダヒメでした。夫婦の娘は毎年一人ずつヤマタノオロチに食べられ、ついに最後に残った姫の番が迫っていたのです。事情を聞いたスサノオは、姫との結婚を条件に怪物の退治を申し出ました。
(絵画)泣いているクシナダヒメと両親を見て、後ろでおろおろするスサノオがカワイイです。
櫛に変えられ、髪に守られる姫
スサノオはクシナダヒメを「湯津爪櫛」という櫛の姿に変え、自らの髪に挿して守ります。そしてアシナヅチとテナヅチに強い八塩折の酒を造らせ、八つの酒槽を用意させました。現れたヤマタノオロチは八つの頭を酒に浸して酔いつぶれ、スサノオに斬り倒されます。櫛は魔除けや魂を宿す品とも考えられており、姫が櫛になる場面には、婚姻によって守られる女性と霊力ある神具という二つの意味が重なっています。
稲の再生と新たな暮らし

◆出雲駅前郵便局の風景印
クシナダヒメとヤマタノオロチ
凛とした姫の姿が美しい

ヤマタノオロチと稲田姫
大蛇を退治したスサノオは、クシナダヒメと暮らす地を出雲の須賀に定め、宮を建てました。その際に詠んだとされる「八雲立つ」の歌は、日本最初の和歌とも伝えられています。
物語は単なる怪物退治ではなく、荒ぶる水の脅威を鎮め、稲田と共同体の平穏を取り戻す再生の神話としても読めます。クシナダヒメは救われる姫であると同時に、新しい土地と家族の繁栄をもたらす女神なのです。
切手と美術に描かれたクシナダヒメ
2012年の「古事記編纂1300年」記念切手には、「板絵著色神像(伝稲田姫命)」が採用されました。白い顔と穏やかな微笑をたたえた姿は、大蛇を前にした悲劇性よりも、神として祀られる姫の優美さを伝えています。一方、出雲駅前郵便局の風景印にはヤマタノオロチと稲田姫が組み合わされ、姫の物語が出雲を象徴する神話であることを印象づけています。浮世絵では、両親と悲嘆に暮れる場面や、大蛇の気配に包まれた姫の姿が劇的に表現されました。
『女神転生』を支える可憐な回復役
クシナダヒメは『真・女神転生』以降、シリーズを通じて繰り返し登場する常連悪魔です。物語上の夫であるスサノオが登場しない作品でも、彼女自身はしっかり女神や国津神として名を連ねています。緑を基調とした可愛らしい和装に、頭や手などへ多数の櫛を備えたデザインは、神話の「櫛に変えられた姫」を巧みに視覚化したものです。回復魔法を得意とし、パーティー全体を立て直してくれることも多い、仲魔として連れて歩きたくなる心強い女神のような存在です。
“Kushinada-Hime” in Shin Megami Tensei and Japanese Mythology
Kushinada-Hime is a goddess of Japanese mythology best known from the tale of Susanoo and the eight-headed serpent Yamata-no-Orochi. Her name appears in several forms, including Kushinada-Hime and Inadahime. She is commonly associated with fertile rice fields, prosperity, marriage, and the continuity of family life.
According to the Kojiki, her parents, Ashinazuchi and Tenazuchi, once had eight daughters. Yamata-no-Orochi devoured one daughter every year until only Kushinada-Hime remained. After descending from the heavenly realm, Susanoo encountered the grieving family and offered to defeat the serpent on the condition that he could marry the princess.
Susanoo transformed Kushinada-Hime into a sacred comb and placed her in his hair for protection. He then prepared eight vats of powerful sake. The serpent drank from them, became intoxicated, and was slain. The comb may be understood not only as a hiding place but also as a sacred object associated with spiritual protection and marriage.
After the victory, Susanoo and Kushinada-Hime built a palace at Suga in Izumo. Their story can therefore be read as more than a heroic monster-slaying tale: the destructive force threatening the fields is overcome, and a peaceful household and fertile land are restored.
A 2012 Japanese commemorative stamp marking the 1,300th anniversary of the compilation of the Kojiki features a traditional painted image identified as Inadahime. An Izumo postmark also pairs the princess with Yamata-no-Orochi, while ukiyo-e artists emphasized either her family’s sorrow or the ominous presence of the serpent.
In the Shin Megami Tensei series, Kushinada-Hime is a recurring demon and a dependable healer. Her elegant green Japanese costume and numerous ornamental combs directly recall her mythical transformation. Even when Susanoo is absent, she often appears in her own right, making her one of the most memorable and welcome healing companions in the series.


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